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腰痛の治療・予防

  • 2022年3月17日

3月に入り、気温が少しずつ上がってきましたね。季節の変わり目で身体には負担がかかるので、体調変化に気をつけながら徐々に春夏に向けた身体をつくっていきたいですね。

さて、前回のブログでは現在の学術的知見に基づいた腰痛の原因について記しました。

今回はそれに引き続き、腰痛の治療・予防について書いていきたいと思います。

ですが先に、述べておきたいことがあります。

腰痛に限らないことでありますが、腰痛に関する原因や治療に関する医学情報はしばしば更新され、20-30年ほど前と現在の提言では大きく変わっていることもあります。そして、ここで私が言うのもなんですが、家族や友人、同僚、医療関係者などからの誤ったアドバイスで腰痛に関する知識はよく誤解されています。1 適切な腰痛への理解・知識をもつことは回復・社旗復帰、予防の助けになりますので、2,3 正しく理解して、適切に対応していきましょう。

ということで、まず腰痛の原因をもう一度おさらいしましょう。

  • 重い物や人、動物を持ち上げる動作は腰痛を引き起こしやすく、さらにそれに+疲労や+変な姿勢が伴うと、さらにリスクアップ!
  • 精神的に過度なストレスがかかっていると腰痛発症リスクアップ
  • 腰痛の約90%が画像検査等で解剖学的異常を特定できない「非特異的腰痛」で、その他にとして脊椎圧迫骨折や脊柱管狭窄症、内臓疾患、腫瘍・転移、感染症などの「特異的腰痛」がある。

以上のように非特異的腰痛の原因には物理的な負担のみでなく、精神状態も関与しているケースが少なくないということが現在の考えのスタンダードとなっています。そのため、治療に際しては単に局所(腰)の対応だけで改善する場合もあれば、局所(腰)だけでなく全体(局所だけでなく精神・心理面も)を対応する多角的な治療が必要になる場合があります。

では、実際に日本や英国、米国、デンマークで作成された「腰痛診療ガイドライン」や主な学術文献では、(非特異的)腰痛に対してどのような治療が推奨されているのか、確認していきましょう!特異的な腰痛に対する治療については別資料やサイトを参考にして頂ければと思います。

1、腰痛発症後の活動制限は?

1990年代頃まで一般的に腰痛には安静が勧められていましたが、現在では過度な安静は避けるべきとされています。解剖学的な異常がない腰痛に関しては、可能な範囲で通常の活動レベルを継続または徐々に再開し、仕事を続けていきましょう。4

2、腰痛に推奨される治療・運動は?

全体的な話として、米国や英国、デンマークのガイドラインでは腰痛に対する治療の第一選択肢として非薬理学的な治療が推奨されています。(薬の副作用を避けるため)5–8

  • 非薬理学的な治療(薬を使わない治療)

腰痛にたいして推奨される治療は以下のように示されています。

理学療法、運動(有酸素、ストレッチ、筋トレ、ヨガ、太極拳、ピラティス)、

鍼治療、心理学的アプロ―チ(認知行動療法、マインドフルネスなど)など

急性腰痛に対しては物理的な介入以外に特に推奨されている非薬理学的治療はありませんが、慢性腰痛に対しては物理的な介入以外に心理精神面に効果があるとされる介入(ヨガ、太極拳、認知行動療法、マインドフルネス)も推奨されています。有酸素運動やストレッチ、筋トレなどは自身でも行うことが可能ですので、慢性痛に悩んでいる方はぜひ行ってみてはいかがでしょうか。

  • 薬理学的な治療

薬理学的治療はそれらの治療効果が十分でない場合や行えない場合などで、一次治療としてNSAIDs(ロキソニンなど)や筋弛緩薬(ミオナールなど)が、二次治療としてセロトニン再取り込み阻害薬(サインバルタ)や弱オピオイド薬(トラマドールなど)が米国ガイドラインでは推奨されています。7 日本のガイドラインでは、急性腰痛に対してはNSAIDsが、慢性腰痛に対してはセロトニン再取り込み阻害薬や弱オピオイド薬、NSAIDsが最も強く推奨されています。8

  • 手術治療

上記の治療による効果が十分でない場合に手術が考慮されることがあります。ただし、腰痛の明確な解剖学的根拠がない場合、非特異的腰痛に対して手術を推奨するガイドラインはありません。

英国ガイドラインでは、非外科的治療で改善されない神経根痛がある場合は脊椎除圧術を受けることを推奨しています。また脊椎手術は術後に患部周囲組織の癒着、くも膜炎、脊椎の不安定化、手術合併症によるフェイルドバックサージャリ―症候群と呼ばれる腰痛やしびれが再度出現する可能性が10-40%ほどはあるとされています。9 そのため、手術治療を行うかどうかは慎重に検討する必要があります。

3、腰痛はどのように予防すればいい?

腰は身体の中心にあり、腰が上手く機能しなくなると仕事や生活に支障が出てしまいます。また、一度腰痛を経験すると腰痛を再発することが多く、場合によってはその繰り返しが腰椎周囲組織の変性(構造的変化)を進行させてしまうかもしれません。そのため、可能ならば腰痛の予防をはかり、腰痛を起こさないようにすることが重要です。

ではどうしたら良いか?

最近のメタアナリシス論文によると、下肢体幹の筋力トレーニング・ストレッチや有酸素運動が腰痛発症率を30-35%減らしたと報告されています。3,10,11 

また65歳以上の慢性腰痛を患っている高齢者では、腰痛のない方と比べ体脂肪量が多くや下肢体幹筋肉量が少ないという報告もあります。12

一方で、腰痛教育のみや骨盤ベルト、インソールでは予防効果が示されておりません。3

つまり、現時点で腰痛予防において強く推すことができることは「定期的に運動を行う」ということです。ただし、運動の仕方によっては腰痛を悪化させてしまうこともあるので、具体的な運動の仕方については専門家に確認することをおすすめします。

最後になりますが、腰痛をお持ちの方や腰痛経験のある方は、まずご自身の運動習慣を見直してみましょう。それでも腰痛が解消されない場合には、近くの専門家に診断・治療してもらいましょう。

参考・引用文献

1,Hoffmann TC, del Mar CB, Strong J, Mai J. Patients’ expectations of acute low back pain management: Implications for evidence uptake. BMC Family Practice. 2013;14(1):1-6. doi:10.1186/1471-2296-14-7/TABLES/2

2,Engers A, Jellema P, Wensing M, van der Windt DAWM, Grol R, van Tulder MW. Individual patient education for low back pain. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2008;(1). doi:10.1002/14651858.CD004057.PUB3/MEDIA/CDSR/CD004057/IMAGE_N/NCD004057-AFIG-FIG08.PNG

3,Huang R, Ning J, Chuter VH, et al. Exercise alone and exercise combined with education both prevent episodes of low back pain and related absenteeism: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials (RCTs) aimed at preventing back pain. British Journal of Sports Medicine. 2020;54(13):766-770. doi:10.1136/BJSPORTS-2018-100035

4,Maher C, Underwood M, Buchbinder R. Non-specific low back pain. The Lancet. 2017;389(10070):736-747. doi:10.1016/S0140-6736(16)30970-9

5,Bernstein IA, Malik Q, Carville S, Ward S. Low back pain and sciatica: summary of NICE guidance. BMJ. 2017;356. doi:10.1136/BMJ.I6748

6,Stochkendahl MJ, Kjaer P, Hartvigsen J, et al. National Clinical Guidelines for non-surgical treatment of patients with recent onset low back pain or lumbar radiculopathy. European spine journal: official publication of the European Spine Society, the European Spinal Deformity Society, and the European Section of the Cervical Spine Research Society. 2018;27(1):60-75. doi:10.1007/S00586-017-5099-2

7,A Q, TJ W, RM M, et al. Noninvasive Treatments for Acute, Subacute, and Chronic Low Back Pain: A Clinical Practice Guideline From the American College of Physicians. Annals of internal medicine. 2017;166(7):514-530. doi:10.7326/M16-2367

8,腰痛診療ガイドライン2019. Accessed February 27, 2022. https://minds.jcqhc.or.jp/docs/gl_pdf/G0001110/4/Low_back_pain.pdf

9,Knezevic NN, Candido KD, Vlaeyen JWS, van Zundert J, Cohen SP. Low back pain. The Lancet. 2021;398(10294):78-92. doi:10.1016/S0140-6736(21)00733-9

10,Shiri R, Coggon D, Falah-Hassani K. Exercise for the Prevention of Low Back Pain: Systematic Review and Meta-Analysis of Controlled Trials. American Journal of Epidemiology. 2018;187(5):1093-1101. doi:10.1093/AJE/KWX337

11,Steffens D, Maher CG, Pereira LSM, et al. Prevention of Low Back Pain: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Internal Medicine. 2016;176(2):199-208. doi:10.1001/JAMAINTERNMED.2015.7431

12,Sakai Y, Wakao N, Matsui H, Watanabe T, Iida H, Watanabe K. Clinical characteristics of geriatric patients with non-specific chronic low back pain. Scientific reports. 2022;12(1). doi:10.1038/S41598-022-05352-2

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