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日々の診療の中、外出を自粛されていた方々が徐々に活動を始められているためか、腰痛で受診される患者様が最近増えているように感じます。今回は腰痛に関してその原因と、日常生活におけるアプローチについて、ブログで紹介をさせていただきたいと思います(ようやく整形外科らしいブログテーマになってきたように思います)。
皆さんは腰痛を経験したことはありますか?
腰痛は人が経験する最も頻度の多い痛み・障害の一つであり、ほとんどの人が一度は経験すると言われています。1,2 腰痛の程度によりますが、腰痛はしばしば日常生活活動(ADL)レベルや生活の質(QOL)の低下を引き起こし、社会活動や経済に影響を与えるので、その対策を適宜施すことが重要になります。そのため、日本の厚生労働省は腰痛予防サイトを作成して啓蒙活動を行っています。3
今回はその腰痛の原因について説明していきたいと思います(治療については後半でお話ししたいと思います)。
1,腰痛を起こす年齢や性別について
腰痛有病者の年齢は30-39歳から高くなり80歳を超えると低下していきます(下図)。4
※ただし、高齢者の場合は重篤な原因がある場合(転移性骨腫瘍、圧迫骨折等)やこれに伴い日常生活に大きな支障をきたすことがある点には注意が必要です。
年齢層・性別ごとの腰痛有病率(文献4より引用)
また、子供が腰痛を持つイメージはあまりないかもしれませんが、小児期においても腰痛は稀ではありません。さらに小児期の腰痛経験は成人になった際の腰痛発症リスクを高め、5 小児期の腰痛も決してケアしないで良い問題ではありません。
過去に日本では「児童の持ち帰り教科書が重たすぎるのではないか」という問題提議がありましたよね。2018年に文科省は児童が勉強道具を教室に置いて帰る通称「置き勉」を認める通知を出しました。このような対策を講じていき、子供の腰痛有病者が少しずつでも減っていくと良いですね。
性別は全年齢層で女性が20%ほど高い有病率が示されています(上図)。特に女性が働く職場や家庭では腰痛予防の環境作りが必要になりそうですね。
2,腰痛を起こすエピソードとは
重量物や人を持ち上げる動作、激しい身体活動をすることが要因として挙げられ、活動中の注意散漫や疲労・倦怠感もリスクとなりえます。また、疲労がある上で重いものを持ち上げたり、ぎこちない姿勢で重いものを持ち上げたりすると、さらに腰痛を引き起こす可能性が5倍以上高まるとされています。6
また夕方に比べ、午前8時-11時の間で急な腰痛を発症するリスクが高いことが示されており、午前中の上記タスクを行う際には注意が必要です。6ただし、腰痛発症のエピソードを特に持たないケースも30%ほどあるので、必ずしも生活活動の中で大きな負荷がかかって痛みを発症するわけではありません。7
時間帯による腰痛発症頻度(文献6より引用)
3,腰痛の危険因子
①身体的要因
腰痛を引き起こす身体的要因として挙げられるのが太りすぎ・肥満です。8 少々の小太りぐらいでは影響が出にくいと思われますが、お腹が出れば出るほど腰椎のアライメントに影響を及ぼしやすくなりますし、脂肪細胞から発現される炎症性サイトカインによる影響も出現するかもしれません。
②心理的要因
心理的な要因としては、抑うつ状態、仕事の不満、睡眠障害、対人ストレスや仕事仲間との不満足な関係が挙げられます。9,10 そのため、腰痛患者のケアにおいては心理状態も留意しながら行うことが望ましいと考えられます。
③遺伝的要因
腰痛は遺伝と関係があるというと意外に感じる方もいるかと思いますが、ある報告では遺伝が生涯にわたる慢性腰痛に26%寄与していると示しており、11 他のレビューでは遺伝の影響が21%から67%を占めることを示しています。12 遺伝と腰痛が関係する理由としては、脊椎の構造や変形性関節症性変化の遺伝が腰痛と関連することが考えられます。
4,腰痛の根本的な原因はどこにある?
腰痛は大きく、「特異的な腰痛」と「非特異的な腰痛」に分けることができます。非特異的な腰痛とは、レントゲンなどの画像検査で病理解剖学的な異常を伴わない腰痛をいいます。腰痛はこの「非特異的な腰痛」が90%ほど占めると言われています。2 腰部のほとんどの解剖学的構造物は、炎症・変性・外傷により腰痛の一因となる可能性があり、非特異的な腰痛の中に椎間板炎、神経根症、筋炎、椎間関節炎、靭帯損傷などが含まれます。そのほかプライマリ・ケアでは、4%が圧迫骨折、3%が脊柱管狭窄、2%が内蔵疾患、0.7%が腫瘍・転移、0.01%が感染と推定されています。13
これらの可能性を念頭におき、症状の出現するタイミングや時間経過、部位などを問診や身体所見で注意深く確認し、どの原因に当てはまるかを絞り込みながら、治療を行うこととなります。
次回のブログでは、日常生活での注意点や腰痛予防に有用な生活習慣等に関して、代表的なものをご紹介させていただきたいと思います。
引用・参考資料
1,Vlaeyen JWS, Maher CG, Wiech K, et al. Low back pain. Nature Reviews Disease Primers 2018 4:1. 2018;4(1):1-18. doi:10.1038/s41572-018-0052-1
2,Maher C, Underwood M, Buchbinder R. Non-specific low back pain. The Lancet. 2017;389(10070):736-747. doi:10.1016/S0140-6736(16)30970-9
3,腰を痛めない働き方を知ろう|厚生労働省. Accessed February 20, 2022. https://yotsu-yobo.com/
4,Hoy D, Bain C, Williams G, et al. A systematic review of the global prevalence of low back pain. Arthritis and rheumatism. 2012;64(6):2028-2037. doi:10.1002/ART.34347
5,Hestbaek L, Leboeuf-Yde C, Kyvik KO. Is comorbidity in adolescence a predictor for adult low back pain? A prospective study of a young population. BMC Musculoskeletal Disorders. 2006;7(1):1-7. doi:10.1186/1471-2474-7-29/FIGURES/1
6,Steffens D, Ferreira ML, Latimer J, et al. What triggers an episode of acute low back pain? A case-crossover study. Arthritis Care and Research. 2015;67(3):403-410. doi:10.1002/ACR.22533/ABSTRACT
7,do Carmo Silva Parreira P, Maher CG, Latimer J, et al. Can patients identify what triggers their back pain? Secondary analysis of a case-crossover study. Pain. 2015;156(10):1913. doi:10.1097/J.PAIN.0000000000000252
8,Shiri R, Karppinen J, Leino-Arjas P, Solovieva S, Viikari-Juntura E. The Association Between Obesity and Low Back Pain: A Meta-Analysis. American Journal of Epidemiology. 2010;171(2):135-154. doi:10.1093/AJE/KWP356
9,Pinheiro MB, Ferreira ML, Refshauge K, et al. Symptoms of depression and risk of new episodes of low back pain: A systematic review and meta-analysis. Arthritis Care and Research. 2015;67(11):1591-1603. doi:10.1002/ACR.22619/ABSTRACT
10,Taylor JB, Goode AP, George SZ, Cook CE. Incidence and risk factors for first-time incident low back pain: a systematic review and meta-analysis. The spine journal : official journal of the North American Spine Society. 2014;14(10):2299-2319. doi:10.1016/J.SPINEE.2014.01.026
11,Carvalho-E-Silva APMC, Harmer AR, Pinheiro MB, et al. Does the heritability of chronic low back pain depend on how the condition is assessed? European Journal of Pain. 2019;23(9):1712-1722. doi:10.1002/EJP.1448
12,Ferreira PH, Beckenkamp P, Maher CG, Hopper JL, Ferreira ML. Nature or nurture in low back pain? Results of a systematic review of studies based on twin samples. European Journal of Pain. 2013;17(7):957-971. doi:10.1002/J.1532-2149.2012.00277.X
13,Deyo RA, Weinstein JN. Low Back Pain. New England Journal of Medicine. 2001;344(5):363-370. doi:10.1056/NEJM200102013440508