「手がこわばって、動かない」 「関節が腫れて、いたいし、だるい」
そのつらさを、他人にはなかなかわかってもらえないリウマチ。 じつは、自分の体の中にある細胞を敵と勘違いして攻撃してしまう 自己免疫疾患のひとつでもあることをご存知ですか?
現在日本には、70万人以上の関節リウマチ患者さんがいると言われています。 ひと昔前までは、「なかなか打つ手がない」とか 「一生、痛みと付き合っていかなければ」という印象もありました。
でも今、関節リウマチ医療は大きく進歩しています。 新しい薬も開発され、「寛解※」を目指し、さらに「寛解」を維持させる時代になっています。 リウマチは、早め早めに治療することが大切。 まずは、専門医に相談してください。
※寛解(かんかい)=リウマチ症状・兆候が消失した状態。
関節リウマチとはどんな病気?
関節リウマチとは、関節が炎症を起こし、軟骨や骨が破壊されてしまい、関節の機能が損なわれ、放っておくと関節が変形してしまう病気です。関節は腫れ、激しい痛みを伴います。他の関節の病気と異なる点は、関節を動かさなくても痛みが生じるところです。手首や手足の関節で起こりやすく、左右の関節で同時に症状が生じやすいことも特徴です。また、関節リウマチの症状は関節だけでなく、発熱、疲れやすい、食欲がないなどの全身症状が生じ、関節の炎症が肺や血管など全身に広がることもあります。
免疫系が自分自身の組織を 攻撃することで起こる
関節リウマチで生じる関節の腫れと痛みは、免疫の働きに異常が生じたために起こると考えられます。免疫は、外部から体内に侵入してきた細菌やウイルス、それらに感染した細胞、癌になった細胞などを攻撃して破壊し、体内に侵入した異物や異常な細胞を排除する働きを担っています。しかし、免疫に異常が生じると、誤って自分自身の細胞や組織を攻撃してしまい、炎症が生じ、関節リウマチの場合には関節の腫れや痛みとなって現れます。 関節で炎症が続くと、関節の周囲を取り囲んでいる滑膜が腫れ上がり、さらに炎症が悪化して、骨や軟骨を破壊していきます。
炎症の悪化を引き起こすのは IL-6やTNFαなどのサイトカイン
体内で炎症が生じたときには、サイトカインという物質が過剰に分泌され、それが炎症を悪化させます。炎症を悪化させるサイトカインにはIL-6(インターロイキン6)やTNFα(ティーエヌエフ・アルファ)などがあります。最近、関節リウマチの治療で使用されるようになった生物学的製剤は、IL-6やTNFαといったサイトカインの働きを抑え、炎症を鎮静化させることができます。
30〜50歳代の女性に多く発症
関節リウマチが発症するピーク年齢は30〜50歳代で、男性よりも女性の方が約4倍も多く発症します。しかし、60歳以降に発症する方も少なくありません。
ほかにも、
などが 関節リウマチの症状であることも!
早期に発見、早期に治療すれば 関節破壊の進行を抑制できる
関節リウマチは、関節が破壊され、変形して動かなくなってしまう病気です。最近の研究では、関節破壊は、関節リウマチの発症後、早期から進行することが明らかになりました。しかし、早期に発見して、早期から適切な治療を行えば、症状をコントロールし、関節破壊が進行するのを防ぐことができます。
関節リウマチの診断
関節リウマチの診断に 必要な項目
1つ以上の関節の腫れがある(触診、超音波、MRI検査のいずれか)
●腫れまたは痛みのある関節の数(診察)
●血液検査値異常の有無 (リウマトイド因子、抗CCP抗体)
●関節炎の持続期間 (6週間未満/6週間以上)
●炎症反応の有無(CRP、ESR)
関節リウマチの症状は、他のリウマチ性疾患の症状とよく似ているため、関節リウマチかどうかを自分で判断することは簡単ではありません。関節リウマチの診断は、問診、診察、血液検査などに基づいて専門医が行うことになります。最近海外では、関節リウマチを早期に診断するために、関節が1カ所でも腫れていて、画像診断で骨びらん(炎症による骨病変)が確認できれば、関節リウマチと診断する基準が発表されました。関節の腫れが続く場合には、一度専門医を受診されることをお勧めします。
関節リウマチの症状や 用語の解説
朝のこわばり
朝起きてしばらくは関節が思うように動かないことです。 朝のこわばりがひどく、早朝の家事や仕事がつらいことがあります。
関節症状
関節リウマチでは特に指、手関節、肘、膝、足関節などで痛みと腫れが生じます。
関節リウマチでは、右半身の関節に症状が出ると、左半身の同じ箇所の関節にも症状が認められます。
このような症状の出方を左右対称性といいます。
リウマトイド因子
ヒトのIgGというたんぱく質に対する抗体で、関節リウマチの炎症に関係します。
関節リウマチの患者さんでは約80%の方がリウマトイド因子陽性となります。
抗CCP(シーシーピー)抗体
関節リウマチの診断に、有用性が高い検査方法です。
陽性だと、関節リウマチである可能性が高くなります。
CRP(シーアールピー)
肝臓でつくられるたんぱく質です。体に炎症が起こると増加し、炎症の程度を示します。
ESR(イーエスアール):血沈(赤血球沈降速度)
細い管の中で赤血球が沈む速度のことです。炎症の程度が強いとこの数値が高くなります。
MMP-3(エムエムピースリー)
軟骨を構成する成分を壊してしまうたんぱく質です。
関節内の炎症が強いと増加します。
関節リウマチの症状の進み方
主な症状は関節の 腫れと痛み
関節リウマチの初期の症状は、関節の炎症に伴うこわばり、腫れと痛み、発熱などです。関節リウマチが進行すると関節の軟骨や骨が破壊され、関節の脱臼や変形などが生じるようになります。関節破壊が進むと、日常生活や家事、仕事に支障が生じるようになり、介助が必要になるなど、機能障害が進行します。
関節リウマチの進行度は 関節破壊と機能障害の程度から分類
一般に医師は、関節リウマチの進行度を関節破壊と機能障害の程度から判定します。 関節破壊の進行の程度は4段階のステージに分類されます。ステージⅠ(早期)はX線検査で骨・軟骨の破壊がない状態、ステージⅡ(中期)は軟骨が薄くなり、関節の隙間が狭くなっているが骨の破壊はない状態、ステージⅢ(進行期)は骨・軟骨に破壊が生じた状態、ステージⅣ(末期)は関節が破壊され、動かなくなってしまった状態です。
ステージⅠ(初期)
骨・軟骨の破壊はみられないが滑膜が増殖している。
ステージⅡ(中等期)
軟骨破壊により骨の間が狭くなる。
ステージⅢ(高度進行期)
骨破壊 ステージⅣ(末期) 関節が強直・固定
また、関節破壊の進行に伴う日常生活の障害(機能障害の進行度)は、4段階のクラスに分類されます。
クラスⅠ(ほぼ正常)は健康な方とほぼ同様に不自由なく生活や仕事ができる状態、クラスⅡ(軽度障害)は多少の障害はあるが普通の生活ができる状態、クラスⅢ(制限)は身の回りのことは何とかできるが、外出時などには介助が必要な状態、クラスⅣ(不能)はほとんど寝たきりあるいは車椅子生活で、身の回りのことが自分ではほとんどできない状態です。
クラスⅠ
通常の日常生活動作は完全に可能(身の回りの動作はもちろん、仕事やそれ以外の活動も)。
クラスⅡ
通常の身の回りの動作、仕事は可能だが仕事以外の活動は制限される。
クラスⅢ
通常の身の回り動作は可能。しかし、仕事以外の活動はもちろん、仕事も制限される。
クラスⅣ
通常の身の回りの動作を含め、すべての行動は制限される。 関節破壊の進行度はX線検査を行わないと分かりませんが、機能障害の程度は、患者さんご自身である程度判断することができます。
関節破壊は 発症後早期に進行する
かつて関節リウマチはゆっくりと進行し、発症から10年以上が経過してから関節破壊が生じると考えられていました。しかし最近では、関節破壊の進行は発症後早期から急速に起こることが分かってきました。関節の腫れや痛みがひどくなくても、関節の内部では炎症が続き、関節破壊が進行していることもあります。
早期発見、早期治療を
関節リウマチでは発症から短期間のうちに関節破壊が急速に進行するため、早期に発見して、早期に治療する必要があります。適切な治療を行うことで関節破壊を防ぎ、関節の機能を維持して、日常生活や家事、仕事への影響を少なくすることができます。
関節リウマチの治療目標と治療法
関節リウマチの治療の目標
関節リウマチ治療の目的は、寛解を目指すことです。寛解とは、リウマチの症状・兆候が消失した状態です。そのためには、関節の痛みや腫れをとること、骨・関節破壊の進行を抑えること、生活機能(QOL)を改善することの3つが重要です。最近では治療法が大きく進歩し、早期から適切な治療を行うことで、寛解を達成することに加え、寛解を維持することができるようになってきています。
関節リウマチの治療法
関節リウマチの治療法として、症状や進み具合に合わせて、薬物療法、手術療法、リハビリテーションなどが行われます。薬物療法の目的は関節の腫れや痛みを抑え、関節破壊の進行を抑制することです。手術療法には、増殖した関節の滑膜を取り除く滑膜切除術、破壊された関節を人工関節に置き換える機能再建術などがあります。リハビリテーションには、関節の動く範囲を広げ、血液の流れをよくして痛みや筋肉のこわばりをとるための運動療法、患部を温めて痛みやこわばりを和らげる温熱療法などがあります。
手術療法の目標
腕(上肢)
- 人工肩関節置換術
- 人工肘関節置換術
- 日常生活動作(食事、洗顔、整髪、着替え、トイレなど)が自分でできるようになる
足(下肢)
- 人工股関節置換術
- 人工膝関節置換術
- 歩行機能を回復させ、寝たきりになるのを防ぐ
関節リウマチの薬と治療法
関節リウマチの薬と治療法
消炎鎮痛薬(NSAIDs)
消炎鎮痛薬は、関節の腫れや痛みを和らげる働きがあります。非ステロイド性の消炎鎮痛薬は、英語綴りの頭文字からNSAIDs(エヌセイズ)と呼ばれることもあります。速効性がありますが、関節リウマチの炎症を根底から取り除くことはできません。関節リウマチの患者さんでは関節の腫れや痛みが長時間続くため、消炎鎮痛薬を継続的に服用することがあります。その場合、副作用である胃潰瘍や十二指腸潰瘍に十分に注意する必要があります。 主に使われている薬としてロキソニン、モービック、セレコックスなどがあります。
抗リウマチ薬(DMARDs)
抗リウマチ薬(DMARDs)(ディーマーズ)は、関節リウマチの原因である免疫の異常に作用して、病気の進行を抑える働きがあります。現在の関節リウマチ治療の第一選択薬は抗リウマチ薬です。しかし、一般に効果が出るまでに1ヶ月から半年くらいはかかるため、消炎鎮痛薬を併用することもあります。効果が不十分な場合には複数の抗リウマチ薬を併用したり、他の抗リウマチ薬に切り替えたりすることがあります。 抗リウマチ薬には、シオゾール、アザルフィジン、リマチル、リウマトレックス、プログラフ、プレディニン、アラバ、コルベット、ケアラムなどがあります。中でも国際的な標準薬として使われているものにメトトレキサート(リウマトレックスなど)があります。関節リウマチと診断されたら、早期から使用することが推奨されています。
ステロイド
炎症を抑える作用が強力で、関節の腫れや痛みを和らげる働きがあります。消炎鎮痛薬や抗リウマチ薬を用いても、炎症が十分に抑制できない場合に用いられます。しかし、ステロイドを中止すると治まっていた関節の腫れや痛みが再発するため、一度使用し始めるとなかなか中止できません。ただし、抗リウマチ薬や生物学的製剤の効果が十分にみられたときは、ステロイドを中止することができます。ステロイドは長期間使用すると、感染症、糖尿病や骨粗鬆症などを引き起こす恐れがあるため、連用する場合には十分な注意が必要です。 主に使われている薬としてプレドニン、プレドニゾロン、デカドロンなどがあります。
生物学的製剤
最近になって関節リウマチの治療に用いられるようになった新しい治療薬です。炎症を引き起こすサイトカインであるIL-6やTNFαの働きを妨げ、関節破壊が進行するのを抑えます。生物学的製剤は、抗リウマチ薬に対して効果が不十分な場合に使用します。この薬は注射(点滴または皮下注射)で投与しますが、その間隔は1週間に2回から2ヶ月に1回までとさまざまです。通院回数やライフスタイルに合わせて治療薬を選択することができます。次項では、生物学的製剤についての詳細をQ&A形式で解説します。
関節リウマチと上手く つきあうために
日常生活で心掛けたい習慣
関節リウマチには、医療行為として3つの治療法があります。薬物療法、手術療法、リハビリテーションが病院で行う治療となりますが、その前段階で基礎療法がとても大切になってきます。基礎療法とは、まず患者さん自身が普段の生活のなかで行うものです。療法と言っても特に難しいものではありません、まずは関節リウマチの知識を正しく持ってまっすぐと病気と向き合うことが基本となります。その上で、普段の生活で心掛けたい留意点をしっかり守りましょう。
日常生活の注意は、その後の治療にも影響すると言われています。患者さんだけでなく、周囲の方の理解とサポートもとても重要になってきます。
基礎療法のポイント
- 安静
日常生活は無理をせず体と心を安静に保つこと
- 保温・湿度
体の冷え、 部屋の湿度が 高くならないように 気をつけること
- 睡眠
睡眠を十分にとりましょう
- お酒やタバコ
お酒とタバコは なるべく控えましょう
日常生活で気をつけたいポイント
関節リウマチを発症すると病気や薬の影響で、ちょっとしたことが体への負担につながったり、感染症を招くことがあります。ここでは日常生活で気をつけたいポイントをご紹介します。
- 外出時はマスクを
- 帰宅時は手洗いとうがいを忘れずに
- 冬は加湿器などで乾燥対策をしっかり
- 汗をかいた後は清潔に
- 傷ができたら消毒と絆創膏を
- インフルエンザワクチンの予防接種を受けましょう(ご高齢の方は肺炎球菌ワクチンも)
リウマチ体操をやってみましょう
回数は、10回を1セットとして、1日2セットを目安に。 ただし、痛みや疲れが出ない範囲で調整しましょう。
午後と入浴後の 1日2回がおすすめ 関節リウマチでは、1日最低1回はすべての関節を動かすことが、発症予防や進行を防ぐために望ましいとされています。ただし痛みがあるのに無理をして動かすと、関節に負担がかかり症状が悪くなってしまうこともありますので、「無理なく、動かせる範囲」で行うことが原則です。
【リウマチ体操】
- 深呼吸 背筋を伸ばし、腕を後ろへ振り胸を反らせながら大きく息を吸い、腕を元に戻しながら吐きます。ゆっくり行いましょう。
- 肩の上げ下げ 両手を体の横につけ、力を抜いて、肩を上げ下げします。肩周辺の筋力アップと、肩関節の可動域を維持します。
- 肩をねじる 肘を伸ばしたまま、両腕を少し開いて、手のひらを前後に返します。肩関節の可動域を維持します。
- 腕の上げ下げ 背筋を伸ばして、両腕を前へ上げます。次に、体の後ろへ引きます。腕の筋力アップと、肩関節の可動域を維持します。
- 腕を外側に動かす 腕を体の横につけます。遠くの方に伸ばすようなつもりで、腰から上へ動かします。腕の筋力アップと、肩関節の可動域を維持します。
- 体を左右にねじる 「気をつけ」の姿勢から体をゆっくりと左右交互にひねります。体幹の関節の可動域を維持します。
- 肘の曲げ伸ばし 「気をつけ」の姿勢から、右手で右肩を、左手で左肩を触れるように肘を曲げます。次に右手で左肩を、左手で右肩を触れるようにします。肘関節の可動域を維持します。
- 前腕の回転・手首の運動 肘を曲げて脇につけます。前腕を回転させ、手のひらを上下に返します。次に、手首を曲げ伸ばしします。(机の上で行っても構いません)。前腕の筋力アップと、手首の関節の可動域を維持します。
- 手の指の運動 手を握ったり開いたりします。次に、指をそろえたり離したりします(どちらも、できる範囲で構いません)。手の指の関節の可動域を維持します。
- 股関節を曲げる 椅子に座って、膝を交互に上げます。股関節の可動域を維持します。また太ももの筋力をアップします。 11 膝を伸ばす 膝を交互に伸ばします。股関節の可動域を維持します。また脚の筋力をアップします。
- 足首の運動 かかとを床につけたまま、つま先を床につけたり離したりします。足首の関節の可動域を維持します。
監修 鳥取大学医学部保健学科 萩野 浩
【効果を引き出すリウマチ体操のポイント】
- 関節が動く範囲を しっかり動かす 関節の状態は人それぞれなので、ここまで動かす、という決まりはありませんが、今動かせる範囲をしっかり動かしましょう。
- 痛みがあらわれる 手前まで動かす 痛みや腫れがあるときに、無理をして動かすと、炎症を進めるもとになり関節によくありません。治まってから動かしましょう。
- 翌日に痛みや疲れが 残らない程度に行う 頑張りすぎて疲れや痛みが出てしまうと、かえって関節に負担をかけてしまいます。疲れをためず、毎日続けることを目標に。
【よくある質問】
Q 関節や軟骨に変形があります。 リウマチ体操をしても大丈夫?
A 痛みや腫れがなければ、 基本的には問題ありません。 リウマチ体操は、関節の可動域を維持する目的で、動かせる範囲で行うため、痛みや腫れがなければ支障ありません。ただし、炎症の状態によっては控える方が良い場合もあるので、主治医と相談しながら行ってください。